今週は、読者の方からの質問に回答します
◆─────────────────────────────────◆
仕 事 の メ ー ル 作 法 < 読者からの質問(3)
◆─────────────────────────────────◆
期待に沿う? 期待に添う? その後

6月9日に配信したVOL.2427
期待に添う? 沿う?< 間違いやすい言葉(2)>

について、プロの翻訳者の方からいただいたご意見を
昨日に引き続き、ご紹介します。

▼昨日配信した VOL.2432 でご紹介した内容はこちら

技術翻訳歴19年のプロ翻訳者 水谷淑見さんは
「期待に沿う」「期待に添う」
どちらを使っているのか、後学のためにお尋ねしたところ、
下記のご意見をいただいたのでご紹介します。

<水谷さんからのご意見>——————————————

共同通信社の記者ハンドブックは私も手元に置いてあります。
ただ、記者ハンドブックの表記はあくまで新聞用の表記です。

つまり、どの記者が書いても同じ書き方の原稿が上がってくる、
という点に重点を置いて作られています。
工業製品と同じ視点で文章を書こうというわけですね。

ですから、そのような視点が要求されない場合に
記者ハンドブックの表記を適用するのは無理があります。

記者ハンドブックはあくまで日本語表記に関する一つの見解に過ぎません。
この点を忘れてはならないと私は考えます。

デジタル大辞泉にも記載されているとおり、語源は同じです。
中国語と日本語は別の言語であり、
漢字が意味する範囲と和語が意味する範囲は異なります。
それにもかかわらず漢字と和語を対応付けて訓読みしているために
どの表記を採用するかという問題が発生しているのです。

採用する表記は状況に応じて変わります。

新聞記事を書く場合は「沿う」。
その他の刊行物に寄稿する場合は、各社の基準に従う。
ビジネスメールを書く場合は「沿う」と「添う」のどちらでもOK。
文学作品であれば、作者の意図に応じて他の漢字表記でもひらがなでもOK。
その場その場で答えは違うはずです。

私が翻訳するときには、
クライアントから指示があればその表記に従います。
指示がなければ私の裁量で選びます。
ただし、文書の中では表記を統一します。

「添う」のほうが、相手の考えに寄り添うような温かみがあって好きです。
この漢字を見た読者も、
おそらくそのようなニュアンスを受け取るでしょう。
カタログなど、気取った表現が多用される場合は、
新聞や雑誌で多用される表記にこだわらずに自由に書くこともあります
(期待に「そう」の場合は他の表記が思いつきませんが)。

——————————————————————-

水谷さんは、このような基準で言葉を選択し、使っておられるのですね。
勉強になりました。

翻訳者 水谷淑見さんのブログはこちら

記事全文を読む